GISを使った自治体業務の効率化、現場ではどう進んでいるのか

自治体の仕事って、びっくりするほど「地図」と密接に関わっています。固定資産税の算定、道路の維持管理、上下水道の配管図、都市計画の用途地域指定、防災ハザードマップ。どれも地図なしには成り立たない。でも実際のところ、GIS(地理情報システム)がどこまで浸透していて、現場の業務をどう変えているのか、外からはなかなか見えにくいものです。

私は水野彩香と申します。都市計画コンサルタントとして10年間、自治体向けのバリアフリー基本構想策定や公共交通計画に携わってきました。現在はフリーランスのライター兼リサーチャーとして活動しています。前職では毎日のようにGISを触っていたので、このツールが行政の現場でどう使われているか、肌感覚を持っています。

この記事では、自治体業務におけるGIS活用の現状と、現場レベルで起きている変化についてお伝えします。「導入して終わり」ではなく、日々の業務がどう変わったのか。そこに焦点を当てました。

そもそもGISとは何か

GIS(Geographic Information System)は、地理的な位置情報と、そこに紐づくさまざまなデータを統合的に管理・分析・可視化するシステムです。紙の地図をデジタル化しただけではありません。場所に「属性情報」を付けることで、検索・分析・共有が一気に可能になる。ここがポイントです。

自治体で使われているGISは、大きく3つのタイプに分けられます。

タイプ概要主な利用者
統合型GIS庁内全部署が共通の地図基盤を使い情報を一元管理全庁横断
業務特化型GIS特定の業務(道路台帳、上下水道管理など)に最適化担当部署
公開型GIS住民向けに地図情報をWeb公開住民・事業者

統合型GISは「全庁共通の地図インフラ」というイメージ。業務特化型は各部署が自分たちの仕事にぴったり合う形で導入するもの。公開型は住民サービスの一環として、都市計画図やハザードマップなどをブラウザから閲覧できるようにしたものです。

自治体のどんな業務でGISが使われているのか

固定資産税の評価・管理

固定資産税の課税には、土地や建物の位置・面積・用途の正確な把握が不可欠です。GISを使えば、地番図と課税台帳を紐づけて管理でき、隣接する土地との関係や、道路への接道状況なども視覚的に確認できます。紙の台帳を何冊もめくって照合していた時代と比べると、作業効率は段違いです。

私がコンサル時代に関わったある自治体では、固定資産の現地確認に年間延べ数百時間を費やしていました。GIS導入後は、事前に画面上で対象地の形状や周辺環境を確認してから現地に向かえるので、「行ってみたら想定と違った」という手戻りが大幅に減ったと担当者が話していました。

道路台帳・上下水道の管理

道路台帳のデジタル化は、多くの自治体で先行して進んだ分野です。道路の幅員、舗装状態、側溝の位置、占用物件の情報をGIS上で管理することで、維持修繕計画の策定が格段にやりやすくなります。

上下水道も同様で、配管の材質・口径・埋設年度をGISに登録しておけば、老朽管の更新優先度を地図上でパッと判断できます。「あの管、いつ入れたっけ?」と紙の図面を引っ張り出す必要がなくなるわけです。

防災・ハザードマップ

洪水浸水想定区域、土砂災害警戒区域、津波浸水想定区域。これらの情報をGIS上で重ね合わせ、避難所の位置や収容人数と照合することで、地域ごとの防災計画が精緻化されます。

埼玉県狭山市では、福祉部門の情報と被災者支援システムをGISで連携させ、避難行動要支援者の把握に活用しています。「この地区に住む要支援者は何人で、最寄りの避難所まで何メートルか」が地図上で即座にわかる。災害時の初動対応では、この「見える化」が命を守ることに直結します。

長野県の事例も興味深くて、ライチョウの保護活動に「ライポス」というGISアプリを導入し、登山者や研究者からの目撃情報を地図上にプロットしています。防災とは異なる分野ですが、「複数の人からの位置情報を集約して可視化する」というGISの強みが活きた好例です。

都市計画・用途地域管理

用途地域や地区計画などの都市計画情報は、建築確認申請の際に必ず参照されます。公開型GISで住民や事業者に提供することで、窓口への問い合わせ件数が減り、職員の負担軽減にもつながっています。

奈良市では庁内の統合型GISリプレイス後に公開型GISの機能拡張を行い、市民投稿型の道路損傷等通報システムを実装しました。住民がスマホで道路の穴ぼこや側溝のフタ破損を通報すると、位置情報付きで担当課に届く仕組みです。従来は電話で「◯◯交差点の近くの…」と説明していたのが、ピンポイントで場所が伝わるようになった。これはGISの双方向活用の好例です。

現場で感じるGIS導入の効果

タブレット連携で現地調査が変わった

ここ数年で大きく変わったのが、現地調査のやり方です。タブレット端末を持って現場に出向き、写真撮影と位置情報の登録をその場で完了させる。事務所に戻ってからの転記作業がなくなりました。

空き家調査を例に取ると、建物の外観状態を撮影し、老朽度合いをその場で入力してGISに即登録できます。街路灯の調査でも、設置位置や劣化状況をリアルタイムで入力する形が増えています。調査スピードの向上はもちろん、転記ミスがなくなるメリットも大きい。

部署横断のデータ共有がスムーズに

統合型GISの導入前は、同じ場所の情報でも部署ごとにバラバラの地図で管理していました。道路課が持っている道路の位置情報と、上下水道課が持っている管路図が微妙にずれている、なんてことは珍しくなかった。

共通の地図基盤を使うことで、「道路の下に埋まっている管はどれか」「この区画の固定資産情報はどうなっているか」といった横断的な確認が一つの画面で完結します。これは地味ですが、業務のスピードを確実に上げている部分です。

住民サービスの向上

公開型GISの整備が進んだことで、住民が市役所に行かなくても必要な地図情報にアクセスできるようになりました。

  • 自宅周辺のハザードマップを確認する
  • 建築予定地の都市計画規制を調べる
  • コミュニティバスのルートや時刻を確認する
  • 空き家バンクの物件情報を地図上で探す

愛知県日進市ではコミュニティバスのバス停・ルートの決定にGISを活用し、豊田市では児童の通学路をデータ化して安全対策の可視化に取り組んでいます。北九州市は再生可能エネルギーの導入状況をGISで可視化し、太陽光発電施設の位置と発電量を地図上に表示。CO2削減効果の「見える化」が新規導入企業の増加にもつながっているそうです。

こうした事例を見ると、GISの活用範囲は「庁内業務の効率化」にとどまらず、「住民との情報共有」「政策の合意形成」にまで広がっていることがわかります。

GIS活用の最新潮流:PLATEAUと3D都市モデル

自治体GISの次のステージとして注目されているのが、国土交通省が推進するProject PLATEAU(プラトー)です。これは日本全国の3D都市モデルを整備し、オープンデータとして公開するプロジェクトで、2020年に始まりました。現在は100を超える都市のデータが利用可能になっています。

3D都市モデルがあれば、建物の高さや形状を含めたシミュレーションが可能になります。たとえば洪水時の浸水シミュレーション、日照条件の分析、景観検討など。従来の2D地図では難しかった立体的な分析ができるようになるわけです。

国土交通省は2027年度までに500都市へのデータ拡大を目標としており、自治体職員向けの研修プログラム「デジタルツールで変えるまちづくり研修」も実施しています。詳しくは国土交通省 Project PLATEAUの公式サイトをご覧ください。

正直なところ、PLATEAUのデータを日常業務に組み込めている自治体はまだ多くありません。3Dモデルのデータ量が大きく、閲覧環境の整備にもコストがかかるからです。ただ、防災シミュレーションや再開発の検討段階では明らかに有用で、今後の活用拡大は間違いないと見ています。

GISを支える「地図を作る人たち」の存在

自治体がGISを活用するためには、その裏側で正確な地図データを整備し、更新し続ける専門人材が必要です。ここは意外と見落とされがちなところですが、地図データの品質がGISの使い勝手を左右する根本的な部分なんですよね。

道路台帳図や各種管理台帳図の作成、空中写真測量、地番図のデジタル化。これらの地道な作業を担っている企業があって初めて、自治体のGISは機能します。

たとえば株式会社T.D.Sは地図・測量からGISデータ整備まで一貫して手がけている企業で、道路や上下水道の管理台帳図作成、データ入力・変換・電子化、行政業務支援システムの開発まで幅広く対応しています。こうした専門企業が「データの鮮度と精度」を担保してくれているからこそ、各部署の職員がGISを日常的に使えるわけです。

GISは導入して終わりではありません。地図データは道路の新設や建物の更新に合わせて常にアップデートが必要。その継続的な更新体制をどう維持するかが、自治体GIS運用の肝だと私は感じています。

導入・運用で自治体が直面する課題

人材不足とリテラシー格差

GISの活用度合いは、自治体の規模や担当者のスキルによって大きな差があります。令和4年のデータでは、市区町村のGIS導入率は約63%。逆に言えば、約4割の市区町村はまだ統合型GISを導入できていないということです。

小規模自治体では「GISを使える職員がいない」「異動で担当が変わると使い方がわからなくなる」という声をよく聞きます。ツールはあっても、使いこなせる人がいなければ宝の持ち腐れです。

国土地理院のページで説明されている地理空間情報活用推進基本法では、地方公共団体の責務として地理空間情報の活用推進が明記されていますが、人材育成の面でまだ課題は大きい。

データ更新の継続コスト

初期導入費用だけでなく、データ更新のランニングコストが悩みの種です。地図データは「作って終わり」ではなく、常に最新の状態に保つ必要がある。道路が1本新設されれば、その情報をGISに反映させなければならない。

この更新作業を庁内の職員だけで賄うのか、外部の専門企業に委託するのか。予算と体制のバランスをどう取るかは、多くの自治体が悩んでいるところです。

最近はクラウド型のGISサービスが増えていて、初期費用を抑えながら最新機能を使えるプランも出てきました。ただ、データそのものの更新作業は自動化できない部分が多いので、「どこに予算をかけるか」の判断は今後も重要な論点であり続けます。

庁内の意識格差

「うちの課はExcelと紙図面で十分回っている」という意識の部署がある限り、統合型GISの効果は限定的になります。全庁で使ってこそ情報共有のメリットが最大化されるのに、一部の部署だけが使っている状態だと投資対効果を示しにくい。

トップダウンでの推進と、成功事例の庁内共有。この両輪が回らないと、導入はしたけれど塩漬けになる、というパターンに陥りがちです。

私の経験上、最も効果的だったのは「隣の課がこう使って業務時間がこれだけ減った」という具体的な数字を示すことでした。理屈よりも、身近な成功体験のほうが人を動かします。

まとめ

自治体のGIS活用は、ここ数年で確実に進んでいます。統合型GISによる庁内情報の一元化、タブレットを使った現地調査のデジタル化、住民向け公開型GISの整備。それぞれのレイヤーで着実に前進しています。

一方で、人材育成やデータ更新コスト、庁内の温度差といった課題は今も残っています。GISはあくまでツールであり、それを活かすのは「使う人」と「データを整える人」です。

PLATEAUのような国の動きも追い風になっていますし、クラウド型サービスの普及で小規模自治体でも導入のハードルは下がりつつあります。今後はGISが「一部の詳しい人だけが使うもの」から「誰でも当たり前に使うもの」へと変わっていくでしょう。その変化の過程を、私はこれからも追いかけていきたいと思います。

最終更新日 2026年5月7日 by futsaa