「この仕事は好きだけど、40代、50代になっても今のペースで施術を続けられる気がしない」。
美容職の転職相談を受けていたころ、エステティシャンの方から何度も聞いた言葉です。
はじめまして、美容職のキャリアについてコラムを書いている三浦彩香です。
専門学校を出てから大手エステサロンで8年働き、最後の数年は店長をしていました。
その後、美容業界専門の人材紹介会社でキャリアアドバイザーを6年務め、今はフリーで執筆をしています。
リクルートのホットペッパービューティーアカデミーが2026年に行った美容サロン就業実態調査では、「今後のキャリアの見通しが開けている」と答えたエステティシャンは37.0%でした。
美容師の48.0%と比べると、11ポイントの差があります。
先が見えにくいと感じている人は、少数派ではありません。
この記事では、エステティシャンが施術の現場を離れて本社・本部側で働く道について、実際に企業が公開している情報をもとに整理します。
Contents
「現場の外」にはどんな仕事があるのか
エステサロンを運営する会社の本社・本部には、サロンを支える仕事がいくつもあります。
ミス・パリ・グループの中途採用の募集要項には、本社職の職務として経営企画、人事労務管理、人材育成、商品企画、PR、経理、総務などが並んでいます。
エステティシャン出身の人が移りやすい仕事を、現場経験との相性で整理すると次のようになります。
| 仕事 | 主な中身 | 現場経験が生きるところ |
|---|---|---|
| 教育・インストラクター | 新人研修、技術指導、接客研修 | 手技そのものと、つまずきやすい所を知っている |
| エリアマネージャー | 複数店舗の売上・人員の管理 | 店長として数字とスタッフを見てきた経験 |
| 人事・採用 | 求人、面接、入社後のフォロー | 現場の実情を応募者に正直に話せる |
| 広報・PR | SNS、プレスリリース、取材対応 | お客様が何に惹かれて来店するかを知っている |
| 商品企画 | 化粧品やコースの企画 | お客様の肌の悩みや反応を直接見てきた |
| スクール講師 | 養成校や社内アカデミーでの指導 | 技術を言葉で説明する力 |
どの仕事も、現場を知らない人より、知っている人のほうが話が早い仕事です。
ただ、施術の腕だけでは務まらないのも本当のところです。
本社への道は、社外より社内のほうが近い
大手サロンの採用サイトに載っているキャリアの例
大手エステの採用サイトを見比べると、現場から本社側へ移った例を公開している会社がいくつかあります。
TBCの採用サイトには、MEN’S TBCでオペレーターを2年、カウンセラーを3年、チーフを3年、店長を3年経験したあと、本社の人事総務部で人事を担当している社員の例が載っています。
同じページには、オペレーターを3年経験してから技術教育のインストラクターになった例もあります。
制度の欄には「自己申告」の記載があります。
スリムビューティハウスの採用サイトでは、1年目に社内認定資格、2年目にチーフ昇格、3年目以降は「進みたい道へ」と書かれています。
行き先は、営業系、技術・教育系、マネジメント系、そして広報・経理・総務の「本部管理系」の4つです。
どちらも、まず現場で数年経験を積み、そのうえで本社側へ進む流れになっています。
外から本社職に入る枠は狭い
一方で、中途採用でいきなり本社職に応募する道はかなり狭いのが実情です。
先ほどのミス・パリ・グループの本社職の募集は、応募資格が「大学院修了・大学卒業の方」、募集人数は2名でした。
転職支援をしていたころも、「エステ経験を生かして他社の本社で働きたい」という相談には、正直なところ紹介できる求人がほとんどありませんでした。
本社の仕事は、社内の事情が分かっている人を内部から登用するほうが、会社にとってもリスクが小さいからです。
本社勤務を目指すなら、「今いる会社、または次に入る会社で長く働いて内側から上がる」ほうが現実的です。
たかの友梨の採用情報から読めること
もう一社、たかの友梨ビューティクリニック(運営は株式会社不二ビューティ)の採用情報も見てみます。
採用サイトのQ&Aでは、キャリアについて次のような道が紹介されています。
- 未経験から店長やリーダーになる
- 講師として技術を指導する
- 自身のスキルを磨き極める
- 経験を積んで独立する
中途の幹部候補の求人には、「まずはエステティシャンとして勤務し、意欲や能力に応じて店長、マネージャーへ」とあります。
東京本社では、エステティシャン経験と講師経験の両方を持つ人などを対象に、講師カウンセラーの求人も出ていました。
こちらは週20時間・月80時間以内で働ける形なので、正社員として本社へ異動する話とは分けて考えたほうがよさそうです。
新卒採用には、エステティシャンとは別枠で「本部社員」の総合職(一般事務・営業事務・アシスタント・エンジニア・宣伝広報)があります。
ただ、サロン勤務から本部の事務職へ移る社内制度については、採用サイトに記載が見当たりませんでした。
これはたかの友梨に限らず、今回調べた大手各社とも、社内公募の仕組みを公式に明記している会社はありませんでした。
気になる会社があるなら、面接で「現場から本部に移った人はいますか」と聞いてみるのが一番確実です。
現場にいるうちに準備しておきたいこと
本社側の仕事に声がかかる人には、共通点があります。
私が店長をしていたころ、本部に呼ばれていった先輩たちを思い返すと、次のような準備をしていました。
- 自分の店の売上や再来率を、数字で説明できるようにしている
- 後輩に教えた内容を、手順書やメモの形で残している
- シフト表や売上報告をExcelで作ることに抵抗がない
- 上司との面談で「いずれは教育の仕事がしたい」と口に出している
最後の1つは意外と大事です。
本社の枠は多くないので、希望を言っていない人は候補に挙がりません。
面談で伝えるときは、たとえば次のような言い方なら角が立ちません。
「後輩の技術チェックを任せてもらって、教える仕事にやりがいを感じています。
すぐにではなくても、いずれ教育の仕事に挑戦したいと思っています。
そのために今の店でできることがあれば教えてください」
「現場がつらいから外に出たい」ではなく、「この会社で次の仕事をしたい」と聞こえるようにするのがコツです。
繁忙期のバタバタした時期に切り出すと、ただの不満に聞こえてしまうこともあります。
評価面談など、落ち着いて話せる場を選んでください。
教育系に進みたいなら、上位資格が名刺代わりになる
エステティシャンに国家資格はありませんが、業界団体の民間資格には段階があります。
日本エステティック協会の場合、認定エステティシャンの上に「認定上級エステティシャン」、さらにその上にAJESTHE認定トータルエステティックアドバイザーがあります。
トータルエステティックアドバイザーは、協会の説明では「サロンでの指導力を有しているエスティシャンに与えられる資格」です。
受験には、上級資格を取ってから2年以上、または通算5年以上の実務経験が必要です。
あわせて資格取得講座の受講と試験の合格も求められます。
社内でトレーナーを選ぶとき、技術が同じくらいなら「人に教える力を外部の資格で証明している人」のほうが推しやすいものです。
事務系に進みたいなら、PCと数字に慣れておく
人事や総務、広報を目指すなら、施術の腕よりもパソコンでの作業に慣れているかどうかが問われます。
エステの現場ではタブレットやレジは触っても、Excelで関数を組む機会はあまりありません。
在職中に簿記やパソコンの講座に通うなら、厚生労働省の教育訓練給付金が使えるか確認してみてください。
一般教育訓練の対象講座なら、受講費用の20%(上限10万円)が修了後に支給されます。
対象になる講座は、厚生労働省の講座検索システムで調べられます。
本社に移ると変わること
本社勤務に移って「思っていたのと違った」とならないよう、変わることも知っておいてください。
よく誤解されるのが「本社に行けば土日休みになる」という点です。
たかの友梨の新卒採用の募集要項で比べると、サロン勤務と本社勤務の違いは次のとおりです。
| 項目 | サロン勤務 | 本社勤務 |
|---|---|---|
| 休日数 | 月9〜10日 | 月8〜9日程度 |
| 定休 | 週1日(土日祝は基本的に出勤) | 日曜・祝祭日 |
| 勤務時間の例 | 平日・土曜10:00〜20:00 | 平日9:30〜18:30など(部署による) |
日曜と祝日は休みになりますが、土曜は出勤があり、休日数はむしろ少し減ります。
ミス・パリ・グループの本社職のように年間休日120日と明記している会社もあるので、休みの形は会社ごとにまったく違います。
お金の面では、歩合や指名料がある会社の場合、本社に移ったあとの給与の組み立てがどう変わるかを事前に確認しておきましょう。
現場の手当がなくなる代わりに本社手当が付く会社もあれば、そうでない会社もあります。
もうひとつ、お客様との距離も変わります。
ミス・パリ・グループの採用サイトで、エステティシャンから店長、エリアのマネージャーを経て、グループの学校法人の校長になった青山卓史さんがこう話しています。
「直接お客様を施術することはできませんが、『お客様を笑顔にする人材』を育成するという大きな舞台に挑戦しています」
「ありがとう」を直接もらえる仕事から、それを後輩が受け取れるように支える仕事へ。
この変化を寂しいと感じるか、面白いと感じるかで、本社勤務の向き不向きはかなり分かれます。
本社を目指すなら、長く働ける会社かどうかが先
業界の離職率を知っておく
ここまで書いてきたとおり、本社への道は「同じ会社で数年以上働いた先」にあります。
つまり、途中で辞めずに続けられる会社かどうかが、キャリアの前提になります。
厚生労働省の令和7年雇用動向調査によると、エステを含む「生活関連サービス業,娯楽業」の一般労働者の離職率は16.1%でした。
全産業の11.4%と比べて5ポイント近く高い数字です。
美容業や理容業なども含んだ分類なので、エステだけの数字ではない点はご注意ください。
入れ替わりの多い業界だからこそ、入る前に職場の中身を確かめておく価値があります。
クチコミは回答日と回答者の立場を見る
会社の中身を知る手段として、企業クチコミサイトを見る人は多いと思います。
求人票や採用サイトには、良いことしか書かれていないのが普通だからです。
ただ、読むときは本文だけでなく「いつ」「どんな立場の人が」書いたかを必ず確認してください。
たとえばOpenWorkにある、たかの友梨の元社員が「女性の働きやすさ」について書いたクチコミは、2017年に投稿されたものです。
回答者は新卒で入社し3〜5年在籍したエステティシャンの女性で、「いまのたかの友梨は働きやすいです」という一文から始まっています。
この方の評価では、「20代成長環境」が5.0、有給休暇消化率が100%となっていました。
一方で、投稿から年数がたっていることや、あくまで1人の経験であることも忘れてはいけません。
私が相談者におすすめしていたのは、次の読み方です。
- 回答日が新しいものと古いものを両方読み、変化を見る
- 自分と近い職種・入社経路の人の声を優先する
- 1件の評価ではなく、同じ話が何人から出ているかを見る
クチコミで「長く働けそうか」の見当をつけ、面接で本部へのキャリアを質問する。
この2つをセットにすると、入社後のギャップはかなり減らせます。
まとめ
エステティシャンから本社勤務へ進む道は、確かにあります。
ただ、その多くは「現場で数年経験を積み、社内で声がかかる」形です。
振り返ると、大事なのは次の点です。
- 本社には教育、エリア管理、人事、広報、商品企画など、現場経験が生きる仕事がある
- 中途でいきなり本社職に入る枠は狭く、社内から上がるほうが現実的
- 教育系なら上位資格、事務系ならPCと数字への慣れが準備になる
- 本社に移ると、休みの形や給与の組み立て、お客様との距離が変わる
- 長く働ける会社を選ぶことが、本社への一番の近道になる
施術の現場で積んだ経験は、本社に移っても無駄にはなりません。
お客様の肌を毎日見てきた人にしか分からないことが、研修にも、商品づくりにも、採用にも生きてきます。
「いつまで施術を続けられるか」と不安になったら、まずは今の会社の本部にどんな仕事があるのか、上司に聞いてみるところから始めてみてください。
最終更新日 2026年9月28日 by futsaa

